1. FIP制度とは?FIT制度との違い
FIPとは「Feed-in Premium(フィード・イン・プレミアム)」の略で、再生可能エネルギーで発電した電力を市場価格で売電し、その上に「一定のプレミアム(上乗せ金)」を国が支払う制度です。
FITとの違いを簡単に言うと
-
FIT制度:国が定めた固定価格で、電力会社がすべて買い取る(価格固定・安定収益)
-
FIP制度:市場価格で売電し、変動する価格+プレミアムを受け取る(価格変動・市場連動)
つまり、FITは「安定的な収益が保証される代わりに市場参加が制限される制度」、
FIPは「市場変動リスクを負う代わりに、自由度が高く将来性がある制度」と言えます。
制度導入の背景
日本のFIT制度は2012年に始まり、再エネ導入を爆発的に進めました。
しかし、発電コストが下がり、再エネ比率が高まるにつれて「固定価格による国民負担(再エネ賦課金)」が増加。
その結果、より市場原理に基づいたFIP制度が2022年に導入され、段階的にFITから移行が進んでいます。
2. FIP制度の仕組みをわかりやすく
FIP制度の基本的な仕組みは以下のようになります。
-
発電事業者は、再エネで発電した電力を「電力取引市場(JEPXなど)」で販売
-
販売価格(市場価格)は需給バランスで変動する
-
国が「基準価格-市場価格=プレミアム分」を上乗せ支給
-
発電事業者は「市場価格+プレミアム」で収益を得る
つまり、発電者は市場価格に左右される一方で、ある程度の収益安定性を確保できる仕組みです。
例で理解する
仮に、
-
基準価格(国が設定):16円/kWh
-
市場価格(JEPX):12円/kWh
であれば、差額の「4円/kWh」がプレミアムとして支給されます。
このように、FIPは「完全な自由市場」ではなく、国が最低限の補助を行う“ハイブリッド型支援”と言えます。
3. FIP制度のメリット
① 市場に合わせた収益の最適化が可能
FITでは価格が固定のため、市場価格が高騰しても収益は変わりません。
一方、FIPでは市場価格に連動するため、「電力需要が高い時間帯に売電すれば利益が上がる」仕組みです。
このことから、電力の最適販売戦略を取れる柔軟性が大きな魅力です。
② 蓄電池やデマンドレスポンスとの相性が良い
FIP制度では、市場価格が安い時間に発電を貯め、高い時間に放電・売電する戦略が有効です。
そのため、蓄電池を併用することで、収益最大化が可能になります。
さらに、AIやエネルギーマネジメントシステム(HEMS)と組み合わせると、時間帯別の最適運用が実現します。
③ 発電の自立性を高め、企業の再エネ価値を向上
FITでは電力会社への「固定売電」が前提でしたが、FIPでは発電事業者が自ら市場に売電できます。
これにより、「再エネ電力を自社で管理・供給できる」ことが企業価値向上につながります。
実際、FIP対応発電所を運営する企業は、カーボンニュートラル企業として評価される傾向があります。
④ 国の財政負担を軽減できる制度
FITは再エネ賦課金による国民負担が課題でした。
FIPは市場価格をベースに補助が付与されるため、国全体としても持続可能な支援制度になります。
4. FIP制度のデメリット
① 市場価格の変動リスクがある
FIPの最大のリスクは、市場価格が下落したときに収益も下がる点です。
特に、天候によって発電量が増えると市場価格が下がる「ダックカーブ現象」では、想定収益が大きく減少する可能性があります。
② 売電管理や取引の手間が増える
FITは申請すれば自動的に買い取られますが、FIPは発電者が市場で売電するため、電力取引の知識・システム対応が求められます。
PPA(電力販売契約)業者やアグリゲーター(再エネ統括事業者)と連携しなければならないケースも多く、個人・中小事業者にはややハードルが高い制度です。
③ 発電予測の精度が求められる
市場取引では「発電予測と実績の差」に応じてペナルティが発生する場合があります。
そのため、AI予測システムを導入するか、アグリゲーターによる予測代行が必要です。
④ 小規模住宅用には向かない
FIPは基本的に10kW以上の事業用発電所向けの制度であり、住宅用の小規模太陽光(10kW未満)はFITが中心です。
そのため、一般家庭がFIPに参加するにはハードルが高いのが現実です。
5. FITからFIPへの移行の流れ
経済産業省は、2030年までに再エネ比率36〜38%を目指しています。
その達成に向けて、FITからFIPへの段階的移行が進行中です。
| 年度 | 主な変更点 | 対象 |
|---|---|---|
| 2022年 | FIP制度開始 | 事業用太陽光・風力など |
| 2023年 | FIT+FIP併用可能に | 小規模事業者にも適用 |
| 2024年 | 市場連動型入札制度拡充 | 一部の地熱・バイオマスにも対象拡大 |
| 2025年 | FIT縮小、FIP主流化 | 発電者の自立運用が標準化へ |
この流れにより、今後の太陽光市場は「固定価格で守られる時代」から「自ら市場で戦う時代」へ移行していきます。
6. FIP制度の導入で得するのはどんな人?
FIP制度は、次のような発電事業者・企業に向いています。
-
発電容量が10kW以上の中〜大規模事業者
-
蓄電池やHEMSなど制御システムを導入している企業
-
再エネを自社ブランド価値として活用したい企業(例:再エネ100%オフィス)
-
アグリゲーターと契約し、市場取引を委託できる事業者
一方で、個人宅レベルの太陽光ではFIT制度の方が現実的です。
ただし、今後はFIPの小規模化・一般家庭向け制度も検討されており、今後の動向には注目が必要です。
7. まとめ
FIP制度は、FIT制度のように「安定的な固定価格買取」を保証するものではありません。
しかし、市場と連動した仕組みのため、電力を戦略的に売電できる新しいチャンスを提供しています。
特に、蓄電池やAI制御を活用して価格変動をうまく利用する事業者にとっては、FIPはFIT以上の収益性を持つ可能性があります。
今後は、発電者が「電気を作るだけ」でなく、「どう売るか」「どう使うか」までを考える時代。
FITからFIPへの移行期にある今だからこそ、制度の特徴を理解し、最適な選択をすることが重要です。