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FIP制度のメリットとデメリットを徹底解説

FIP制度のメリットとデメリットを徹底解説

太陽光発電などの再生可能エネルギーを取り巻く環境は、2025年を迎えて大きく変化しています。
その中心にあるのが、「FIP制度(Feed-in Premium)」です。
FIT制度(固定価格買取制度)に代わって主流となりつつあるこの仕組みは、発電事業者が電力市場でより自由に取引できるよう設計されています。
本記事では、FIP制度の仕組みやメリット・デメリット、そして今後の太陽光発電との関係をわかりやすく解説します。

目次

    1. FIP制度とは?FIT制度との違い

    FIPとは「Feed-in Premium(フィード・イン・プレミアム)」の略で、再生可能エネルギーで発電した電力を市場価格で売電し、その上に「一定のプレミアム(上乗せ金)」を国が支払う制度です。

    FITとの違いを簡単に言うと

    • FIT制度:国が定めた固定価格で、電力会社がすべて買い取る(価格固定・安定収益)

    • FIP制度:市場価格で売電し、変動する価格+プレミアムを受け取る(価格変動・市場連動)

    つまり、FITは「安定的な収益が保証される代わりに市場参加が制限される制度」、
    FIPは「市場変動リスクを負う代わりに、自由度が高く将来性がある制度」と言えます。

    制度導入の背景

    日本のFIT制度は2012年に始まり、再エネ導入を爆発的に進めました。
    しかし、発電コストが下がり、再エネ比率が高まるにつれて「固定価格による国民負担(再エネ賦課金)」が増加。
    その結果、より市場原理に基づいたFIP制度が2022年に導入され、段階的にFITから移行が進んでいます。


    2. FIP制度の仕組みをわかりやすく

    FIP制度の基本的な仕組みは以下のようになります。

    1. 発電事業者は、再エネで発電した電力を「電力取引市場(JEPXなど)」で販売

    2. 販売価格(市場価格)は需給バランスで変動する

    3. 国が「基準価格-市場価格=プレミアム分」を上乗せ支給

    4. 発電事業者は「市場価格+プレミアム」で収益を得る

    つまり、発電者は市場価格に左右される一方で、ある程度の収益安定性を確保できる仕組みです。

    例で理解する

    仮に、

    • 基準価格(国が設定):16円/kWh

    • 市場価格(JEPX):12円/kWh

    であれば、差額の「4円/kWh」がプレミアムとして支給されます。
    このように、FIPは「完全な自由市場」ではなく、国が最低限の補助を行う“ハイブリッド型支援”と言えます。


    3. FIP制度のメリット

    ① 市場に合わせた収益の最適化が可能

    FITでは価格が固定のため、市場価格が高騰しても収益は変わりません。
    一方、FIPでは市場価格に連動するため、「電力需要が高い時間帯に売電すれば利益が上がる」仕組みです。
    このことから、電力の最適販売戦略を取れる柔軟性が大きな魅力です。

    ② 蓄電池やデマンドレスポンスとの相性が良い

    FIP制度では、市場価格が安い時間に発電を貯め、高い時間に放電・売電する戦略が有効です。
    そのため、蓄電池を併用することで、収益最大化が可能になります。
    さらに、AIやエネルギーマネジメントシステム(HEMS)と組み合わせると、時間帯別の最適運用が実現します。

    ③ 発電の自立性を高め、企業の再エネ価値を向上

    FITでは電力会社への「固定売電」が前提でしたが、FIPでは発電事業者が自ら市場に売電できます。
    これにより、「再エネ電力を自社で管理・供給できる」ことが企業価値向上につながります。
    実際、FIP対応発電所を運営する企業は、カーボンニュートラル企業として評価される傾向があります。

    ④ 国の財政負担を軽減できる制度

    FITは再エネ賦課金による国民負担が課題でした。
    FIPは市場価格をベースに補助が付与されるため、国全体としても持続可能な支援制度になります。


    4. FIP制度のデメリット

    ① 市場価格の変動リスクがある

    FIPの最大のリスクは、市場価格が下落したときに収益も下がる点です。
    特に、天候によって発電量が増えると市場価格が下がる「ダックカーブ現象」では、想定収益が大きく減少する可能性があります。

    ② 売電管理や取引の手間が増える

    FITは申請すれば自動的に買い取られますが、FIPは発電者が市場で売電するため、電力取引の知識・システム対応が求められます。
    PPA(電力販売契約)業者やアグリゲーター(再エネ統括事業者)と連携しなければならないケースも多く、個人・中小事業者にはややハードルが高い制度です。

    ③ 発電予測の精度が求められる

    市場取引では「発電予測と実績の差」に応じてペナルティが発生する場合があります。
    そのため、AI予測システムを導入するか、アグリゲーターによる予測代行が必要です。

    ④ 小規模住宅用には向かない

    FIPは基本的に10kW以上の事業用発電所向けの制度であり、住宅用の小規模太陽光(10kW未満)はFITが中心です。
    そのため、一般家庭がFIPに参加するにはハードルが高いのが現実です。


    5. FITからFIPへの移行の流れ

    経済産業省は、2030年までに再エネ比率36〜38%を目指しています。
    その達成に向けて、FITからFIPへの段階的移行が進行中です。

    年度 主な変更点 対象
    2022年 FIP制度開始 事業用太陽光・風力など
    2023年 FIT+FIP併用可能に 小規模事業者にも適用
    2024年 市場連動型入札制度拡充 一部の地熱・バイオマスにも対象拡大
    2025年 FIT縮小、FIP主流化 発電者の自立運用が標準化へ

    この流れにより、今後の太陽光市場は「固定価格で守られる時代」から「自ら市場で戦う時代」へ移行していきます。


    6. FIP制度の導入で得するのはどんな人?

    FIP制度は、次のような発電事業者・企業に向いています。

    • 発電容量が10kW以上の中〜大規模事業者

    • 蓄電池やHEMSなど制御システムを導入している企業

    • 再エネを自社ブランド価値として活用したい企業(例:再エネ100%オフィス)

    • アグリゲーターと契約し、市場取引を委託できる事業者

    一方で、個人宅レベルの太陽光ではFIT制度の方が現実的です。
    ただし、今後はFIPの小規模化・一般家庭向け制度も検討されており、今後の動向には注目が必要です。


    7. まとめ

    FIP制度は、FIT制度のように「安定的な固定価格買取」を保証するものではありません。
    しかし、市場と連動した仕組みのため、電力を戦略的に売電できる新しいチャンスを提供しています。
    特に、蓄電池やAI制御を活用して価格変動をうまく利用する事業者にとっては、FIPはFIT以上の収益性を持つ可能性があります。

    今後は、発電者が「電気を作るだけ」でなく、「どう売るか」「どう使うか」までを考える時代。
    FITからFIPへの移行期にある今だからこそ、制度の特徴を理解し、最適な選択をすることが重要です。